「臨床心理士」という名称に加えて、最近「公認心理師」という資格も時々見かけるようになりました。
でも、この二つの違いがよく分からない、という方も多いのではと思います。
結論から先に言ってしまうと、一番の違いは、臨床心理士は民間資格、公認心理師の方は国家資格ということです。
では、公認心理師の方がエライのか?
公認心理師を目指せば間違いないのか?
というとそう単純ではありません。
両方の資格を持って実務にあたっている立場から、
二つの資格にどんな違いがあるのか、詳しく解説していきますね。
混同しやすい他の資格(医師、カウンセラーなど)との違いも載せています。
ざっくり知りたい!という方は、目次を見ていただければだいたい分かるようになっています。
臨床心理士とは・公認心理師とは
それでは早速、それぞれの資格について見ていきましょう。
臨床心理士と公認心理師は、どちらも心の問題を援助する専門家
まず、臨床心理士も公認心理師も、「人の心の問題について援助する専門家」というところは共通しています。
「臨床心理士」とは、臨床心理学にもとづく知識や技術を用いて、人間の“こころ”の問題にアプローチする“心の専門家”です。
(日本臨床心理士資格認定協会)
この法律は、公認心理師の資格を定めて、その業務の適正を図り、もって国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的とする。
(公認心理師法)
「公認心理師」とは、公認心理師登録簿への登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。
心理学にも認知心理学、発達心理学、社会心理学、教育心理学、などなど様々な分野がありますが、
臨床心理学とは、「床(とこ=ベッド)に臨む」心理学、
すなわち、実験室や研究室を出て、実際に現場で困っている人に関わり、援助するための学問です。
いちばんイメージしやすいのは、いわゆるカウンセラーでしょう。
公認心理師の方には「臨床」という言葉が入っていませんが、
これは既存の臨床心理士と区別するためで、
業務として相談に応じることや援助を行うことは法律で明確に定められています。
臨床心理士と公認心理師は、業務内容も似ている
もう少し細かく見てみましょう。
詳しい業務内容はどう規定されているのでしょうか?
ちなみに、ここは資格試験の出題ポイントです!
このうち、Aと①、Bと②は、ほぼ同じと考えて良いでしょう。
③はBやCと重なっており、④はCと重なっています。
大きく違うのは、臨床心理士の業務には調査・研究(D)が入っていることです。
これについては後ほど説明しますが、
つまり、定義上は、臨床業務においてはどちらもほとんど変わりがない、ということです。
臨床心理士と公認心理師の違い
ここまで、二つの資格は似ている、という話をしてきました。
形式上は、そうです。
でも、その実態は、実は大きく違うんです。
どういうことでしょうか?
ここではその違いについて、深掘りしていきましょう。
位置づけ:臨床心理士は民間資格、公認心理師は国家資格
はじめに書いたように、臨床心理士は民間資格で、公認心理師は国家資格。
社会的にはこれが一番の違いです。
国家資格とは、医師や弁護士、看護師などのように、国の法律で定められた資格ですから、その社会的な地位や信頼性は一般に高いとされています。
その資格の専門性を、国が保証しているわけですね。
一方、臨床心理士は、「日本臨床心理士資格認定協会」という民間の機関が認定しています。
民間なので、法律上の特別な規定や権限というものはありません。
ここだけを見ると、公認心理師の方が上位の資格のように見えます。
しかし、以下に述べるように、
現在のところ、専門性や信頼性が高いのはむしろ臨床心理士のほうだと言っても良い状況があります。
受験資格:臨床心理士は大学院卒、公認心理師は大卒でもなれる
まず、受験資格ですが、どちらの資格にも、複数のルートがあります。
詳しく書くと複雑になってしまうので、王道のルートだけを挙げて比較しましょう。
※ここに書いてあるルートがすべてではありませんのでご注意ください
つまり、臨床心理士は基本的に大学院を修了しなければなりませんが、
公認心理師は、大卒でも実務経験があればなることができます。
特に、現在は法律が施行されたばかりのために「特例措置」というものがあり、
大学で心理学を専門に学んでいなくても、
「一定の」実務経験があれば、公認心理師になれてしまいます。
ここでは詳しく述べませんが、ここは、現場の心理職の間でかなり疑問視されてきた部分です。
したがって、
・目指す人から見れば、公認心理師の方がなりやすく、
・援助を受ける側から見れば、臨床心理士の方がより専門性が高い可能性がある、
と言えるのです。
もちろん、両方の資格を持っている人もたくさんいます。私もその一人です。
専門性:臨床心理士は研究もする、公認心理師は実践メイン
先ほど、専門性の話が出ました。
臨床心理士は、基本的に大学院を修了しなければならないので、
大卒でもなれる公認心理師に比べて、専門性が高い可能性がある、という話でした。
大学院で2年間、専門的に学ぶわけですから、この差は小さくありません。
では、大学院を出ていれば、臨床心理士も公認心理師も変わらないかというと、
そうではありません。
そこで求められている専門性にはまだ違いがあるのです。
資格の定義のところで触れたように、
臨床心理士の業務には、「調査・研究」が含まれています。
臨床心理学の研究手法にはアンケート調査や観察など様々なものがありますが、
現場に出てから特に重要になるものとして、「事例研究」があります。
実際の臨床ケースを詳細に振り返ることで、
- 自分の行なったカウンセリングにはどんな効果があったのか
- その効果はどんな要因で生じたのか
- 反対に上手くいかなかったのはどんなところか
- それはどうして上手くいかなかったのか
- 今回の経験から言えることはどんなことか
などを分析し、周囲からの助言や指摘をもらう貴重な機会です。
事例研究は、臨床と深く結びついた研究手法であり、
独りよがりのカウンセリングをしないために重要なものですが、
これは、公認心理師には求められていません。
明確に定められていないというだけで、ちゃんと事例研究をしている公認心理師の方もいると思います。
一方で、公認心理師は実践を優先したカリキュラムになっています。
すなわち、必要な実習時間が長く設定されています。
ただし、前述した特例措置で公認心理師資格を得た人の中には、
このような専門的な研究や実習は経験せず、現場に出たという方も少なくありません。
また、資格試験にも違いがあり、
臨床心理士は、2次試験で全員、現役の臨床心理士の面接を受けますが、
公認心理師は、すべて筆記のみで合格することができます。
さらに、
臨床心理士は、5年ごとに更新が必要ですが、
公認心理師は、一度取ってしまえば何十年でも名乗ることができます。
この辺りにも、専門性の違いが表れてくると言えるでしょう。
合格率:臨床心理士は62.7%、公認心理師は53.4%
これは参考程度ですが、資格試験の合格率についても触れておきます。
臨床心理士は、おおむね60%台前半で安定しています。
公認心理師は、まだ3年しか経っておらず、合格率にはかなりバラつきがあります。
現状を見ると、将来的には50~60%程度に落ち着くでしょうか。
直近の合格率だけを見ると公認心理師の方が難しそうに見えますが、
そもそも受験資格を得るためのハードルは臨床心理士の方が高いです。
(臨床心理士は、院試+修士課程修了+臨床心理士試験のすべてにパスする必要がある。)
総合的に見れば、臨床心理士の方が難易度が高いと言えるでしょう。
歴史:臨床心理士は30年以上、公認心理師は3年
臨床心理士の資格認定が始まったのは1988年。
一方の公認心理師は、法律の施行が2017年、初の資格試験が2018年。
実に30年の開きがあります。
この30年の間に、「臨床心理士」は名実ともに、国内で臨床を担う心理職の代表格となりました。
民間資格でありながら、公務員の採用要件として掲げられてきたほどです(スクールカウンセラーなど)。
それだけの信頼と実績を積み重ねてきたと言えるでしょう。
一方、長く心理職の国家資格化が目指されてきました。
もともとは「臨床心理士をそのまま国家資格に」という流れもあったわけですが、すったもんだ 紆余曲折を経て、別の資格として誕生したのが公認心理師です。
したがって、まだまだ日が浅く、認知度もさほど高くありません。
医療機関の中でも、他職種から「公認心理師って何ですか?」と聞かれることがあります。
しかし、実はその人数は、すでに逆転しているのです。
既存の臨床心理士の多くが公認心理師を取得した、ということもありますが、
臨床心理士を持っていなかった人たちも、少なくとも数千人規模で、
この国家資格を取得していることが分かります。
公認心理師の方が、臨床心理士より裾野の広い資格と言えるでしょう。
臨床心理士/公認心理師と、他の資格との違い
それでは最後に、よく間違われやすい他の資格との違いについて、見ておきましょう。
臨床心理士/公認心理師と、医師との違い
病院で心理士をやっていると言うと、お医者さんと間違われることが時々あります。
「精神科医ってことですか?」と聞かれますが、違います。
精神科医は、国家資格である医師免許を持つドクターであり、
心の病気を診断・診療・診察することができる人です。
お医者さんなので、診断書を書いたり、薬を処方したりできます。
臨床心理士や公認心理師は、
カウンセリングや心理検査をすることはできますが、
病気の診断・診療・診察はできません。薬の処方もできません。
ちなみに、精神科医の中にも、臨床心理士や公認心理師の資格を持っている方はいます。
(医師免許と2年以上の臨床経験があると、臨床心理士を受験できます。)
また、精神科医と似た存在として、心療内科医や神経内科医がいますが、
いずれも医師という点で共通しています。(専門の科が違うだけです。)
臨床心理士/公認心理師と、カウンセラーとの違い
これが一番分かりにくいかもしれません。
単なる「カウンセラー」というのは、資格の名称ではなく、一般名詞です。
「カウンセリングをする人」という意味で、
「営業マン」とか「販売員」とかと同じです。
(産業カウンセラーなど、資格の名称に含むものもあります。)
つまり、資格も経験もなくても、誰でも今すぐにでも名乗ることができるのです。
カウンセラーという名前は分かりやすいので、
臨床心理士や公認心理師の中にも名乗っている人はいます。
一方で、何の資格もなくカウンセラーを名乗る人もいます。
「カウンセラー」は特定の資格ではないということを押さえておいてください。
臨床心理士/公認心理師と、精神保健福祉士との違い
一般の人は、この資格をあまり聞いたことがないかもしれません。
長いので、PSWと略されることが多いです。
精神科の病院などにいて、患者さんが日常生活を円滑に送るサポートをしたり、
社会資源の情報提供や手続きをしたり、他の機関との橋渡しをしたりします。
SWはソーシャルワーカーの略で、
心の問題に直接取り組むというよりも、
その人の周りの社会的な環境・資源を整えることをメインに活動します。
フットワークの軽い人、コミュニケーション能力の高い人が活躍できる仕事です。
臨床心理士/公認心理師と、認定心理士との違い
たまにこれも混同されることがあります。名前もちょっと似ていますよね。
この資格を掲げてカウンセラー業務を行なっている人も結構見かけます。
認定心理士は、日本心理学会という心理学系の学会が認定する資格で、
大学で心理学の基礎知識・基礎技能を修得していることを認定するもの。
単位を履修すれば申請でき、試験はありません。
また、必ずしも「臨床」の科目に限りません。
つまり、認定心理士は、
「大学で心理学の勉強をしました」ということを認定するだけの資格であり、
「臨床心理学を専門的に学びました」、「カウンセリングができます」という資格ではありません。
(認定心理士がカウンセリングをしてはいけないわけではありません。)
まとめ
以上、臨床心理士と公認心理師の共通点や相違点を見てきました。
文中でも触れたように、実際には、両方持っている人も多い状況ではありますが、
これから目指す方や、それらの専門家の援助を受けようと考えている方は、
その違いを知っておくと良いと思います。
さらに知りたいという方は、以下の記事もぜひ参考にしてください。
お読みいただきありがとうございました!
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