はじめに
ちょっとしたLINEの反応、上司の表情、同僚の言い回し。
何気ないやりとりの中で、「嫌われたかも」「責められているかも」と、
心がざわついたことはありませんか?
でも少し時間が経ってから振り返ると、
「あれは自分の思い込みだったのかもしれない」と気づくこともある。
それでも、そうした”瞬間の不安”に毎回振り回されてしまうのは、
決して気のせいや性格のせいではありません。
実は私たちのこころには、「認知のゆがみ」と呼ばれる
“考え方のクセ”が存在しています。
この記事では、自分の思考のクセに気づくための視点と、
少し楽になるためのヒントをご紹介します。
感情を生むのは、出来事そのものではなく「解釈」
たとえば、上司に「この書類、あとで修正しておいて」と言われたとき。
Aさんは「忙しいのにまた面倒な仕事を頼まれたな」と軽く受け流し、
Bさんは「自分はちゃんとできなかったんだ」「嫌われているのかも」と落ち込む。
同じ言葉を受け取っても、感じ方や心の反応は人によってまったく違います。
この違いは、起こった出来事(事実)そのものではなく、
その出来事に対して自分がどんな「意味づけ」や「解釈」をしたかに起因しています。
この“無意識に働く解釈のクセ”が、
ときに私たちの心を苦しめる原因にもなっているのです。
認知のゆがみ —— よくある10の思考のクセ
認知のゆがみとは、
私たちが物事を認識するときに無意識に取り入れてしまう偏りや誤った考え方のこと。
ここでは、よくある10のタイプをご紹介します。
- 全か無か思考:「成功」か「失敗」か、極端に考える
- 一般化のしすぎ:一度の失敗を「いつもこうだ」と思い込む
- 心のフィルター:悪い点ばかりに目がいき、良い面が見えない
- マイナス化思考:ポジティブなことを「でも」「たまたま」と打ち消す
- 結論の飛躍:根拠なく「嫌われている」「見捨てられる」と思い込む
- 拡大解釈と過小評価:自分のミスを大きく捉え、他人の長所を過小評価
- 感情的決めつけ:「不安だから、きっとうまくいかない」と感じたままを真実にする
- すべき思考:「○○すべき」に自分を縛る
- レッテル貼り:「自分はダメな人間だ」と決めつける
- 個人化:自分に責任がないことまで「自分のせい」と感じる
これらの思考パターンは、誰もが多かれ少なかれ持っているものです。
問題は、それが「無意識で」「繰り返し」起こっているとき、
心がじわじわと疲れてしまうという点です。
「思い込み」から一歩引いてみる方法
認知のゆがみは、自分の心を守るための“思考の習慣”ともいえます。
だからこそ、急に「直す」「消す」必要はありません。
大切なのは、「今、自分はどんなレンズで物事を見ているか?」に気づくことです。
たとえば、以下のような問いかけを、自分に投げかけてみてください:
- 「今のこの解釈に、証拠はあるだろうか?」
- 「これを友人が言っていたら、私はどう答えるだろう?」
- 「他の見方をするとしたら、どんな考え方ができる?」
こうした問いを持つことで、
“自分の頭の中で自動的に再生されたストーリー”から、
少しだけ距離を取ることができるようになります。
「事実と推測を区別する」習慣が心を守る
日常の中で、気持ちが乱れたときは、
「これは事実?それとも自分の解釈(推測)?」と整理してみるのがおすすめです。
たとえば、
- 【事実】上司の返事がそっけなかった
- 【推測】きっと自分に怒っているに違いない
こうして書き出すだけでも、
「自分の中で“推測”を“真実”のように信じ込んでいたな」と気づくことができます。
これは、心を守るための大切な習慣のひとつです。
おわりに
「それ、本当に現実?」と自分に問いかけてみることは、
感情に振り回されず、自分の心を守る第一歩です。
認知のゆがみは、誰にでもあるもの。
でも、それに”気づいているかどうか”で、
ものごとの見え方や感じ方は、大きく変わっていきます。
世界は、あなたが思っているよりも、少しだけやさしいかもしれません。
まずは、自分の見ている“こころのレンズ”を、そっとのぞいてみませんか。
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