「どうせ自分なんて」——“スキーマ”という心のレンズ
はじめに
ちょっとした指摘に、必要以上に落ち込んでしまう。 誰かに否定されたと感じた瞬間、心がざわついて、その場にいられなくなる——。
そんな経験はありませんか?
たとえ相手が悪意を持っていないと頭ではわかっていても、 心のどこかで「やっぱり自分が悪い」「自分なんて」と思ってしまう。 そんなとき、私たちの心の奥では、ある“見えないレンズ”が働いているかもしれません。
この記事では、そのレンズ——「スキーマ(schema)」について、 やさしく解説しながら、自分への見方を少しずつほぐしていくヒントをお届けします。
「どうせ自分なんて」が繰り返される理由
「どうせ自分なんて」と思ってしまう背景には、 実は「自分をそう見ることが当たり前になっている」という心のクセがあることがあります。
たとえば、幼い頃に「がんばっても認めてもらえなかった」経験を重ねていると、 大人になった今も、どこかで「自分には価値がない」と感じてしまう。
そうした“自分に対する見方”は、日常の小さな出来事に反応しやすくなり、 自分を否定する言葉として、心の中に繰り返し現れてしまうのです。
スキーマという、こころの“レンズ”
心理学では、こうした心のクセを「スキーマ(schema)」と呼びます。
スキーマとは、これまでの人生で積み重ねた経験や環境からできあがった、 “自分”や“世界”に対する基本的な思い込み・前提のこと。
たとえば、「人に迷惑をかけてはいけない」や「がんばらないと価値がない」など、 自分でも気づかないうちに、日常の選択や感じ方に大きな影響を与えています。
スキーマは一種の“心のレンズ”のようなもので、 そのレンズを通して、物事を見たり、人の言葉を受け取ったりしています。
どんなスキーマが、自己否定を生むのか
自己否定につながりやすいスキーマの例としては、
- 「自分は愛されない存在だ」
- 「いつか見捨てられるかもしれない」
- 「他人の期待に応えなければ価値がない」
- 「弱さを見せたら負けだ」
などがあります。
こうしたスキーマは、幼少期の家庭環境や人間関係、学校での体験などを通じて、 ゆっくりと形づくられていくことが多いです。
一度身についたスキーマは、繰り返し現実の出来事を通して強化され、 “自分とはこういう人間だ”という確信のようになってしまうことがあります。
スキーマに気づくことから、自分の扱い方が変わる
スキーマは、「悪いもの」ではありません。 むしろ、生きるうえで必要な「こころの地図」のような役割も果たしています。
けれど、 ・過剰に自分を責めてしまう ・人からの評価に過敏になってしまう ・チャレンジする前に「どうせ無理」と思ってしまう
といった反応に苦しんでいるなら、一度その地図を見直してみる時期かもしれません。
まずは、 「自分はどういうときに落ち込みやすいのか?」 「どんな言葉に敏感に反応してしまうのか?」 といった“パターン”に気づいてみる。
そのうえで、「それって本当に今の自分に合っている地図かな?」と、 問い直すことができると、少しずつ視野が広がっていきます。
おわりに
「どうせ自分なんて」と思ったとき、 それは「今の出来事」に対する反応だけでなく、 過去のスキーマが反応している可能性があります。
スキーマに気づくことは、 過去を責めることでも、自分を変えようと無理をすることでもありません。
それは、 「今の自分の見方を、やさしく見直していく」 そんな小さな勇気とやさしさの始まりです。
心のレンズが少しずつ曇りを取りはらい、 ありのままの景色を映し出してくれるようになると、 「どうせ自分なんて」という言葉も、自然と出番を減らしていくかもしれません。
ゆっくり、ていねいに。 自分との付き合い方を、見直していけますように。
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